企業の新たなビジョンを掲げて実施される社名変更ですが、その法的な手続きの中で実務担当者がふと疑問に抱くのが「会社の憲法である定款は、お金をかけてゼロから作り直さなければならないのか」という問題です。定款には会社の名前である商号が必ず記載されているため、社名変更を行う際には当然この定款の内容を書き換える必要があります。本コラムでは、社名変更に伴う定款の再作成費用の有無と、法的手続きを終えた後の重要書類の正しい取り扱い、および保管方法について詳しく解説していきます。
まず結論から申し上げますと、社名変更を行ったからといって、会社設立時のように再び公証役場へ出向き、数万円の手数料を支払って定款そのものを公式に認証し直す必要は全くありません。会社設立時に作成され認証を受けた「原始定款」と呼ばれる最初の定款は、あくまで設立当時の歴史的な記録として、そのままの状態で保存しておくのが法的なルールとなっています。では、どのようにして新しい社名が反映された定款を証明するのかというと、株主総会で社名変更の特別決議を行ったことを法的に証明する「株主総会議事録」がその役割を担います。
日常的な実務における正しい取り扱い方法としては、会社設立時の原始定款の後ろに、社名変更を決議したこの株主総会議事録をホッチキスなどで一緒に綴じておくのが、最も確実で費用のかからない運用となります。この二つの書類がセットになることで、現在の正式なルールを定めた「現行定款」として強力な法的な効力を発揮するのです。もし、古い社名が記載された定款と議事録を別々に管理するのが煩わしく、一つの綺麗な書類としてまとめ直したい場合は、自社内で新しい社名に書き換えた定款のデータを印刷し、末尾に代表取締役が「原本に相違ない」旨を記載して会社の実印を押す「原本証明」を行えば足ります。この社内での作成作業に、外部への支払いや公的な手数料は一切かかりません。
そして、これらの手続きを終えた後に極めて重要になるのが、新しくなった書類の厳重な保管方法です。原始定款や株主総会議事録の原本、そして法務局で新しく取得した社名変更後の登記簿謄本は、会社の根幹を証明する取り返しのつかない最重要書類です。これらは絶対に紛失や汚損がないよう、耐火金庫や鍵の掛かる頑丈なキャビネットに保管し、社外への持ち出しを厳しく制限する必要があります。
一方で、銀行口座の開設や各種の行政手続き、新たな取引先との契約など、社名変更の直後は定款のコピーの提出を求められる場面が頻繁に発生します。そのたびに金庫から貴重な原本を取り出してコピーするのはリスクが高いため、原本証明を行った最新の現行定款をあらかじめ高画質のデータとしてスキャンし、強固なセキュリティ環境下で電子ファイルとして社内共有しておくことを強くおすすめします。
社名変更は、社内の書類管理のあり方を見直す絶好の機会でもあります。無駄な再作成費用をかけることなく、正しい知識で重要書類をスマートに管理し、新しい社名での円滑なビジネス展開を裏側からしっかりと支えていきましょう。


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